今ではすっかり放送禁止用語になってしまった「百姓」という名称。

本来は「百通りの事が出来るから百姓」なのであって差別用語だと言うのはただの無知だ。

著者の生まれ故郷は現在の神奈川県川崎市宮前区土橋。

子供の頃、そこで古い茅葺き屋根の家に住み、農業を営む祖父母のことが恥ずかしかったが

国際交流の道へと進み、海外で出会った若者達の地元の伝統と暮らしを誇りに思う姿に

大好きだった祖父母を引け目に感じたかつての自分を思い出していたたまれなくなり、

地元の土橋のことをコツコツと調べ始めた著者は

ふと、家の土倉に貼られた黒い犬のお札に目を留める。

それはかつてどの家にも貼られていた、盗難や火災から守ってくれる「おイヌさま」だった。

昔から氾濫に悩まされながらも多大な恩恵をもたらしてくれる多摩川への感謝を込めて

土橋の住民達は「講」を組み、毎年御岳山への参拝を続けてきた。

講中で東京都青梅市の御岳山にある武蔵御嶽神社にお参りに行く代表者を決める御嶽講で見たものは

向かい合う二頭の「おイヌさま」と「武蔵御嶽神社」と書かれた掛け軸。

はたして「おイヌさま」とは何者なのか….

カメラ片手に調べを進めていくうちに見えてきたものは

山で仕留めた鹿の肩甲骨を焼いて出来たヒビから宮司でさえ読み取れないという

吉凶を探り当てて作付けを決める太占を紐解き、

身の回りの事なら全て自ら行うお百姓と山の神様の密接な関係だ。

風前の灯と言われる日本の伝統的な営みは

ひっそりとながらも脈々と続いていることに改めて気づかされる一冊だ。

伝統文化が失われるということは

若い世代が魅力に気づかないでいると同じくらいに

先代たちがその魅力を伝えきれていないということでもある。

本作は著者によってドキュメンタリー映画にもなっているので是非そちらも観て頂きたい。

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