そんなに伝記を読むほうではない。

でもこれまでで一番面白く感動的な伝記に出会った。

昆虫や植物をつぶさに観察し続け記録したイラストが大ヒットした女流画家にして自然科学者。

この世に生を受けたのは1647年のフランクフルト。

父と養父が有名な画家で通常の人より絵を学ぶ環境に恵まれていたとはいえ

その時代の女性が自分の道を歩み、それまではびこっていた迷信を否定し

画家としての名声を自分一人で勝ち取りながら52歳で亜熱帯の南米スリナムへ研究に行く。

なにせ虫は自然発生してくるものと信じられ芋虫が蝶になるとは誰も知らなかった時代である。

彼女の功績は当時から幅広く認められ、出版した画集は大ヒットを飛ばし、

350年後の現代の昆虫・植物図鑑のあり方そのものに多大な影響を及ぼしている女性。

普通、この時代ならいつ魔女裁判にかけられてもおかしくはない。

それがマリア・シビラ・メーリアン。

努力の人の人生は決して楽な幼少期で幕を開けたわけではなかった。

偉大な画家であった父・マテウス・メーリアン亡き後、

後妻である母が先妻の子供達と折り合いが悪かったため生家を追い出されてしまう。

その後母が嫁いだ画家マレルの元ではもう少し優遇されたようで、

継父の工房で兄弟子の手解きを受けて絵の基礎と銅版画の印刷技術や水彩を学ぶことが出来た。

それが母にとっては気に入らない。

我が子が昆虫に興味を持ち、捕まえてきてはその生態を観察するなど

女の生きる道は良妻賢母の主婦のみと頑なに信じていた母としては許し難いことだった。

本人は二度の結婚に精神的に擦り切れて少しも幸せではなかったのにもかかわらず。

これは現代の女性にも決して色褪せることのない問題だろう。

女だからという理由で実兄達や兄弟子のように大学や留学をすることは叶わない。

かといって娘のマリア・シビラはそんなことで自身の探究精神を曲げるようなヤワではなかった。

彼女は担々と駒を進めながら時を待つのだ。

ヒモの様な夫ではあったものの自分が働くことや昆虫の研究をすることに対して放任主義の伴侶を持ち、

唯一生家のメーリアン家の中で自分の事を可愛がり、応援してくれる歳の離れた異母兄に支えられ

自分の片腕として大いに活躍してくれた娘二人に恵まれ

幸い男性の領域とは見なされていなかった自然科学だったがために誰に憚れることなく

研究に没頭出来たというには本当に奇跡的で羨ましい人生としか言いようがない。

しかも晩年、新大陸の見た事もない昆虫を観察したい一心で三か月以上の船旅を経て

想像を超える暑さと湿気に耐えながら次女を携えてジャングルに分け入る勇気とタフさは尋常ではない。

それについて行く次女も凄いが…

兎にも角にも心躍る伝記が読めて嬉しいかぎりである。

情熱の女流「昆虫画家」―メーリアン波乱万丈の生涯

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