エミール・ゾラといえば長編大作シリーズ、というイメージが強いが
巨匠なだけあって短編もなかなかの腕前である。
実はエミール・ゾラ、フランスでは1980年代まで
あまり教育の場で教員からの評価は芳しくなかった。
たしかに「居酒屋」や「ジェルミナール」などの代表作は
人間がどのようにして転落の一途を辿っていくのかを
執拗までに描いていて、あまり教育上宜しくないとされるのも頷ける。
全体的に暗い運命が立ち込めていると言っていい。
それに比べて短編はどうかというと、一変して軽やかとも言い難いが
それでも長編とは違った風通しの良い作風に仕上がっている。
この一冊に収められている短編は麗らかなフランスの田舎の風景や涼しげな描写が目立ち、
「周遊旅行」や「シャーブル氏の貝」を読むだけでちょっとしたバカンス気分に浸れる。
ブロターニュ地方の浜辺の煌めく描写や海の情景を描く言葉に是非注目してほしい。
とはいえ自然派のゾラの風刺がなりを潜めたわけではなく、
モーパッサン並みにフレンチ・ユーモアが効いている短編も多い。
当時の戦争への反発で書いた「水車小屋攻撃」は戦争というものが
いかに一般市民を不条理に巻き込み、それまでの生活や人生を一日足らずで破壊していくのかを
若い婚約者達の悲劇の愛を背景に語られていく。
戦争はある日突然、やってくるのだ。
自然派の作家達でサークルを作っていただけあって
他の作家と兆通するテーマもちらほらある。
「ジャック・ダムール」はバルザックの「シャベール大佐」とそっくりだし、
「シャーブル氏の貝」もモーパッサンの「モントリオル」とほぼ似ているので、
こちらが気に入った方はこの二冊もいかがだろうか。
なんにせよ、夏の暑い日に川辺りにでも持って行って読むのにぴったりな短編集だ。
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